アンテナ○

解析ソフトを使用して設計したヤギアンテナを実際に製作した際の評価方法について


 なんだか、無茶苦茶長いタイトルだなぁ・・・。

 この文章は「ENCC EXPRESS vol.29 '95ハムフェア特集号」に投稿したものに加筆したものです。


 「アンテナ・シミュレーター」の中で、僕が最初に触れたのは「YSIM (DOS版)」でした。これは自分にとっては画期的なソフトでした。フィールドテストをしなくても、アンテナの特性が画面に出てくるのですから! しかし、「シミュレーターを使用して作ったアンテナを実際に作ったら、本当にその性能が出ているのか?」という点が疑問としてまずは沸きました。いろいろと試行錯誤しながら、この疑問が解決していくのですが、その過程で書いたのがこの文章だったのです。今となっては、自分でも舌足らずの点もあると思いますが、取りあえず、修正、加筆した上、WEB化してみましたので、ご覧下さい。(以下から本文です。)


 「アンテナシミュレーター」と呼ばれる、アンテナ解析ソフトは、最近では一般的になり、それらを利用したアンテナ製作記事をよく見掛けます。

 これらの解析ソフトは、その名前の通り、「実際のアンテナ」をコンピューター上でシミュレートするものですが、これらのソフトを使用して設計したアンテナを実際に製作した時の問題点について考えてみることにします。

 最近のソフトでは、実際の設置状況に近づけるために様々なパラメーターが入力できるようになっていますが、完全に実際に架設する際のの状況を入力できるとは言いきれないと思います。例えば、ブームやクランプの影響については、どのようになっているのでしょうか? 実際に製作した時に、解析通りの性能が得られているのでしょうか?

 そこで、実際に製作したアンテナが、解析通りの特性か得られているかどうかを確認する方法を考えてみることにします。


 ところで、アンテナの特性と一口に言っても、様々な要因があります。SWR、フロントゲイン、ビームパターン、帯域・・・他にも様々な要因があります。その中でも、フロントゲインはかなり重要なウェイトを占めるのではないでしょうか。特に、そのピークの値が目的の周波数付近にあるかどうかが重要だと思います。それを確認するにはどうしたら良いでしょうか?


 アンテナの性能を確かめる一つの手法として、「SWRの測定」が挙げられます。
 
 当然と言えば当然なのですが、SWRの値はフロントゲインの特性を確認する為の手段にはなりません。以下に示す2種類のアンテナがあった場合、50.1MHzで使用する場合にどちらが優秀なアンテナと言えるでしょうか? どちらの特性のアンテナも製作することが可能です。

ant 1 50.1MHz 52MHz
SWR 1.0 2.0
F.gain 7dB 10dB
ant 2 50.1MHz 52MHz
SWR 2.0 1.0
F.gain 10dB 7dB

 ラジエーター以外のエレメントがどのように働いていたとしても、ラジエーターとそのマッチングセクションの調整で、SWRはどのようにも落とすことができるのです。フロントゲインに関係なくです。このようなことから、「SWRの測定」は、実際に製作したアンテナが解析通りの特性か得られているかどうかを確認する方法としてあまり適さないと思います。


 次に、各周波数でのフロントゲインを測定して、そのピークが目的の周波数にあるか確認することを考えてみます。被測定アンテナと標準アンテナを切り替えて、そのゲイン差を比べ、周波数を軸としたグラフを描くことを考えてみます。その為に、以下のようなシステムを組むことを想定します。


 送信側では、実験アンテナと基準アンテナの切り替えを行う。
受信側では、どちらのアンテナから発射された電波も同様の強さで受信できるようにステップATTを調整。
このATT量の差を実験アンテナの基準アンテナに対するゲインとする。


 このシステムを用いて、フロントゲインを測定する時の問題点を考えてみます。

・基準アンテナのゲインを特定するのが難しい。
・基準アンテナと測定アンテナの空間的な位置がズレると、空間的に電界の強いところと弱いところが生じてしまう。
・基準アンテナと測定アンテナのSWRの違いが、ゲインの差になってしまう。
・基準アンテナと測定アンテナの打上高が異なると、受信点でのレベルが変わってしまう。

等々が考えられます。

 他のシステムでの方法も考えるのですが、やはり、フロントゲインのピークの周波数を特定するのは難しいと思います。


 次に、ビームパターンの測定です。さきほどは、SWRの値とビームパターンやフロントゲインの関係を書きましたが、ビームパターンとフロントゲインの関係はどのようになっているでしょうか?

 アンテナのフロントゲインは、送信機から供給された電力を特定の方向に集中させることで得られています。全方向のビームパターン(垂直面、水平面全て、立体を思い浮かべてください。)によってフロントゲインは決定されると考えられます。つまり、フロントゲインとビームパターンの間には密接な関係があるということになります。この考えには、アンテナに供給される電力がロスなく電波として変換されていることが条件となりますが、短縮コイル等、そのような要因は無いと考えておきます。

 ビームパターンの測定については、それを相対値として捉えると、フロントゲインの測定よりも不安要素は少ないと思います。基準アンテナは使用しなくても良いし、送信側のパワー、受信側のゲインは絶対値ではなく相対値として扱えばよいことになるのでこれらの問題も無いのです。
 そこで、フロントゲインのピークが目的の周波数にあることの確認を行う為の手法として、解析ソフトで得られた各周波数のビームパターンと、実際に製作したアンテナの各周波数のビームパターンを比較することが有効なのではないかと思います。

 そこで、実際に製作したアンテナ(50MHz 8エレ)の各周波数でのビームパターンを、YSIMの出力結果と実測とで比較したものの一例を示してみます。

測定状況、実験システム
 
 送信側のパワーを一定とし、受信側でステップATTを調整して、常にSメーターの振れが同じにする。
ATTの減衰量でビームパターンを書くことが出来る。

50MHz 8el Yagi-Uda ビームパターン(YSIM出力)



50MHz 8el Yagi-Uda ビームパターン(実測)


 上記2つの図は、大きさも周波数もバラバラで比較するには少し見にくくなっています。ご了承下さい。
でも、この2つの図を眺めていると、いくつか面白いことに気付きます。

 上記のビームパターンの中で最も特徴的に見ることができるのはバックローブです。これについてだけを見てみます。

 YSIM出力についてはまず見てみます。49.0MHzでは3つに割れていたものが、周波数に上がるに従ってくっついていきます。50.2MHzでは、バック方向への輻射が少し減り、その後、バックローブは増加の一途をたどり、51.2MHzではF/B比がゼロになります。

 一方の、実測結果について見てみます。50.0MHzでは20dB以上のF/B比が確認できます。何とかですが、バックローブがばらけている様子も確認できます。50.25M、50.5MHzと、バックローブが大きくなっていきます。50.75MHzではF/B比が10dBを切ります。51.0MHzではまだ10dB近くのF/B比が確認できます。YSIM出力では、51.5MHzにおけるF/B比はゼロ、もしくはそれ以下に見えますが、実測結果ではまだ5dB以上のF/B比が確認できます。

 このようなことから、YSIM出力と実測結果の間には、「周波数的なズレ」があるように感じられます。逆に言えば、ズレているだけで、それを補正すればYSIMの出力も実測に近いように感じます。それでは、このズレがどのくらいか? 定量的に調べる方法があれば良いのではないかと思います。また、ビームパターンの測定は大変な労力を必要とします。もっと簡単な方法はないものでしょうか?


 ビームパターンの端的な要素として、F/B比が挙げられます。各周波数でF/B比を測定し、それを対周波数のグラフとして記録して解析結果と比較してみてはどうでしょうか。垂直面のパターンについては無視してしまうことになりますが、逆に、このグラフで何が読めるかを取り敢えずみつけてみることにします。下記にその結果を示します。(ただし、以下の結果は上記ビームパターンを測定したアンテナとは別のアンテナの結果です。同じ8エレですが。データの整合性が取れて無くて申し訳ありません。)



 このグラフからも、ビームパターンの比較の時と同じようなことが分かります。周波数的にはズレが確認されるものの、解析に似た結果が実測で出たということです。折れ線のカーブは同じような軌跡をたどっているように見えます。

 F/B比最大の時の周波数を比較すると、周波数的なズレがどれくらいかが分かってきませんか? 51.8-50.6=1.2MHz どうやら、YSIM結果と実測の間にはこれだけのズレがありあそうです。F/B比がゼロになる最低周波数を比較しても同様のことが言えそうです。

 また、このアンテナの解析結果でのF/B比最大周波数=50.6MHz ゲイン最大の周波数=49.6MHz ということを参考にすると、実測でのF/B比最大周波数=51.8MHz ということから、ゲイン最大の周波数≒50.8MHz と予想できます。


 では、他のソフトではどうでしょうか? YOというソフトを使用し、50MHzの4エレヤギを製作してみました。そして、同様の測定を行ってみました。その測定状況と結果を以下に示します。


測定状況、実験システム
 
 住宅密集地で、半径100m以内に4〜5階建のビルがあります。はっきり言って、測定条件は最悪です。
(写真は、受信アンテナから送信アンテナを見た様子。)



 YOでは、YSIMよりも細かな条件を入力できます。その結果か、周波数的なズレは少ないようです。F/B比が最大の周波数、F/B比がゼロになる最低周波数のいずれもがほぼ一致しているのです。F/B比の数値自体がかなり違いますが、これは地面や周りの障害物の影響、それに垂直面のどこの方向を捉えているかの差だと考えています。

 つまり、F/B比最大の周波数、F/B比がゼロになる周波数、それに全体のカーブの傾向と言った端的な要素のみを読み取れば、測定環境が悪くてもこの手法は使えるのではないかと思うのです。


 これらのことから、解析ソフトにより設計、製作したヤギアンテナをより簡単に、確実に評価する方法として以下の方法を提案します。

「F/B比を各周波数で実測し、コンピューターによる解析結果と比較する。」

 私としては、上のような結論になったのですが、至らない点が多々あると思います。皆さんに、指摘していただけると幸いです。


 実験のきっかけを作ってくれたJA1QPY(YSIM作者)、JE1BMJ、それに実験を手伝ってくれた、JF2EGV,JG2CEZ,JI2XPB,JJ2GMH,JO2WQXに感謝します。



実験をやっている時の一こま


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