アンテナ○

50MHz 5el Yagi-Uda 「ver. Tenshi」 調整編


 「ver.Tenshi」の調整について書いてみます。
 ビームアンテナの性能はSWRだけでは決定されません。とは言え、SWRが落ちていなければ実用になりません。ver.Tenshiは2つのSWR最小点を持つことで、結果的に広帯域なアンテナとなっています。Tマッチの動作と合わせて、調整途中で採取したデータを元にいろいろと考察してみたいと思います
 なお、測定にはMFJ−259Bを使用しました。この機械はR+|j|が直読できるので大変便利です。ただ、リアクタンス成分が絶対値で、キャパシタンス側なのか、インダクタンス側なのかが計れないのが残念なのですが・・・
 調整する点は  ・エレメントの長さ  ・Tマッチの位置   の2点です。


1.エレメントの長さはSWRのカーブにどう影響するか?

 まずは、Tマッチの位置を一定にしたまま、エレメントの長さを少しずつ変えた時のSWRの変化を見てみます。

 エレメントを長くすればSWR最小周波数が低くなり、エレメントを短くすればSWR最小周波数は高くなります。しかし、SWR最小の時の値は必ずしも1.0ではありません。

 2.エレメントの長さは純抵抗成分にどう影響するか?

 測定ミスも多少あると思いますが、エレメントを長くするほど純抵抗は下がります。ダイポールとは逆の動きをしていませんか? SWR=1.0の条件である、R=50を通過するポイントがl=1430の時は2回あります。なんとも不思議な感じ。
 

3.ラジエーターの長さはリアクタンス成分にどう影響するか?

 ラジエーターの長さを変えると、|j|=0の周波数は確実に変化しています。しかし、上記グラフだと、jを絶対値として扱っているため、なんだか変な感じです。そこで、想像でキャパシタンス側がどちらか想像して書きなおしたのが以下のグラフです。

 多少のエラーを測定ミスとして割り切った上で見れば、エレメントの長さを長くした方がインダクタンス側に振られることが観察できます。

 ところで、上記のRとjのグラフを眺めると面白いことが分かります。どちらも3次曲線を描いていて、必ずしも、周波数の上昇と、純抵抗、リアクタンスの動きは比例しないのです。これはダイポールアンテナでは観察できない性質で、このようなSWRのディップが2点あるような広帯域Yagi-Udaアンテナ特有の性質のようです。
 Yagi-Udaアンテナのマッチングは、決してラジエーターだけでもたらされているわけではなく、全てのエレメントがマッチングに関与します。まぁ、当たり前と言えば当たり前なのですが、ダイポールアンテナと同じ感覚で調整しても、Yagi-Udaアンテナのマッチングを取ることはできないということだと思います。
 とは言っても、YO上でいろいろと試すと、ラジエーターの長さはビームアンテナとしての性能(ビームパターンやフロントゲイン)にはあまり影響しないようなので、次のように考えるのが良いと思います。

1.ビームアンテナとしての性能はラジエーター以外のエレメントで引き出す。
2.マッチングそのものはラジエーターで取る。
  ただし、帯域の広さはラジエーター以外のエレメントが支配的なので、1の段階で十分に検討しておく。

 4.Tマッチの位置はSWRのカーブにどう影響するか?


 使用可能周波数(大体、51.1MHzくらい)より上ではTマッチの位置はあまり関係ないようです
Tマッチの位置を大きくすれば、2つのSWRディップの周波数の差が小さくなるようです。
また、2つのディップ点の周波数差を大きくすると、その間のSWRが上昇します。スタガ同調のダイポールアンテナのようです。

 5.Tマッチの位置は純抵抗成分にどう影響するか?


 Tマッチの位置を外側にすると純抵抗成分は大きくなることが観察できます。

 6.Tマッチの位置はリアクタンス成分にどう影響するか?


 Tマッチの位置を外側にするとキャパシタンス側に振られるようです。しかし、低めの周波数ではあまりTマッチの位置の影響はないようです。

 ここまで調べて分かったのですが、「理論編」で書いた「エレメントの長さとTマッチの位置がどのように純抵抗とリアクタンスに影響を与えるか。」という記述に付いては誤りがあるようです。実際のところ、自分でもよく分からなくなってしまいました。以上の結果からは次のような結論が得られてしまうからです。

(うーむ、これじゃ調整できないって結果になるんじゃない。どうすりゃいいんだ? でも、SWRはちゃんと落ちるわけだし・・・)

 「ビームアンテナとしての性能」はYO上で調整しているわけですが、それが実際に再現されているかどうかを確認するために、今回もF/B比のグラフをシミュレーション結果と実測値で比較してみます。

 F/Bが最大の周波数と、F/Bがゼロになる周波数はほぼ一致していて、シミュレーション結果と実測値との周波数的な差が少ないと考えられます。
 ついでと言ってはなんですが、SWRのグラフでも、シミュレーション結果と実測値を比較してみます。
こちらも非常に似通ったグラフになりました。

  以上、いろいろとグラフにしてみましたが、アンテナの調整で重要なのは、「SWRが落ちているか? どうか?」を見るのではなく、「どこでSWRが落ちているのか?」「どのようなSWRのカーブを描いているのか?」というように細かく現象を観察し、「どのパラメーターを動かすと、どのようにSWRのカーブが変化するか?」をつかんで追いこんでいくということです。そのためにはまめに記録を取る必要があると思います。
 根気強く調整してみてください。
 


 調整が済めばアンテナは完成です。

 静岡近辺では何人かがこのアンテナを使用していますが、国内コンテストで上位になった人も何人もいますし、DXの迎撃に使用している人もいます。ちょっとした移動運用には最適です。
 DXの実績は、CQ誌に掲載された、LU、KL7、H40の他にも、W、PY、CE、5B4等々多くのエンティティーをGETされた方がいます。また、スタックでのDX実績では、9H1、EA(ロングパス)の他に、インド洋スキャッターのSMなんてのもありました。SMなんて自分もQSOしたことがないのに・・・。

 サイクルのピークはもう過ぎてしまったかな? でも、50MHzの楽しさはDXだけではありません。このアンテナを製作して移動運用を楽しんでみませんか?


おまけ

このアンテナを作って、HPに製作記を載せている皆さんのページをリンクしておきます。
JR1ERU
7M2WNR


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