○ MS ○

1998/11/18 獅子座流星群 2本のアンテナで聞いてみました


コトの発端

  マスコミが散々煽った「獅子座流星群」も思ったよりは大したことは無かったようですね。しかし、それに僕も乗せられてしまい、この流星群を利用したMS(メテオ・スキャッター)通信を試みました。
 ちょうど、ニフティーサーブでも特設会議室が設けられ、いろんな話題で盛り上がっていました。その中で、「MSの電波はどこからやってくるか?」という話題がありました。「MSを利用するには、実際に流れ星が見える方向にアンテナを向けるの?」 「いやいや相手の局のいる方向にアンテナを向けるんじゃないの?」 「でも、アンテナが真上を向いていたり、あさっての方向を向いているときも聞いたことがあるよ?」 そんな話題を見つつ、少し変わった移動運用を試みました。

2本のアンテナ

 2本の性格の違うアンテナを用意し、それぞれで捉えた電波を同時にワッチできたら、何か分かるのではないか? そう思い、まずはアンテナをアンテナシミュレーター「AO」と「YO」でシミュレートしてみました。紆余曲折はあったものの、以下の2本のアンテナを用意することにしました。

・5エレYagi-Uda(以下ヤギと略)      3mh
・1/2λダイポール(以下DPと略)  1.5mh

 高さが低いのにも理由があります。

 説明をわかりやすくする為にシミュレーター上の結果を交えて説明します。まずは、2本のアンテナの垂直面の指向性をご覧下さい。

5エレヤギの垂直面指向性の図
5エレYagi-Uda 3mhの垂直面のパターン(YO結果)

真上方向からへの輻射が極めて少なく、バック等のサイドローブも小さい。
ちなみに、これよりも地上高を低くしても高くしてもサイドローブが大きくなる。
地上高が6mを越えるとメインローブが分裂するため、今回の実験には適さない。
ダイポールアンテナの垂直面指向性の図
1/2λダイポール 1.5mhエレの垂直面のパターン(AO結果)

真上方向からへの輻射が大きく、打ち上げ高が水平に近づくほどゲインは落ちる。
地面が反射板になって、真上に向けた2エレヤギのような放射パターンになる。


 上の図では少し比較しずらいので、2つのアンテナの打ち上げ高を直線のグラフ上で比較してみました。それが、以下のグラフです。

50度以下ではヤギの方がゲインが高いが、それよりも上部から後方に向かってはDPの方がゲインが高い。


 以上のように、この2つのアンテナは垂直面の指向性については互いに違った性格を持っています。

 5エレは前方の比較的低い角度からの電波を、DPは真上を中心として比較的高い角度からの電波を捉えることができます。アンテナ間の距離としては10mくらい離れていました。多少の影響はあったかもしれません。以下がそのアンテナの設営状況です。

アンテナ架設状況
左のポールに付いているのがDP、右側が5エレ
ちなみに移動地は清水市駒越海岸。
ダイポールアンテナの架設状況
5エレヤギの架設状況
1.5mh ダイポール

ステンレスエレメントによるもので、
マストに付けた給電部から
左右にエレメントが伸びている。
3mh 5エレ ヤギ

ちなみに、20リットルのタンクに水を詰めて
持っていき、これを重しにしてタイヤベーに
乗せて自立させた。こんなのでもノーステーで
もってしまった。(当日はそれなりに風があったが)


設備

 上記2つのアンテナで捉えた信号を比較しやすく記録する為に以下のようなシステムを組むことにしました。

システムの絵

 MSでは瞬間的なオープンが多いため、同時にそれそれのアンテナからの信号を受信、記録できるようにしました。無線機の種類が違いますが、感度の差はそんなに変わらないと思います。(551の方はGaAsプリアンプ内蔵)

当日の様子

 午後10時就寝、午前2時起床、出発という強行スケジュール! 眠いのなんのって。 車を走らせていると、早速、430MHzFMでJP2NXA/2清水市日本平とつながります。こんな深夜というのに、天体ショーを無線で楽しもうと続々とローカルが出てきました。静岡大学の脇の道路を走ると、なぜか歩いている人が多い。久能海岸に出て分かりました。この人達はみんな流星群を見に来たのね・・・。海沿いのコンビニエンスストアは深夜というのに沢山の人であふれていました。おいおい、日の出じゃないんだぞ。(って自分もその一部ですが。)

 駒越海岸に着くも、車がギッシリなんで奥へ奥へと進み、なるべく人の少ないところでアンテナを設営しました。こんなに人がいるとは思わなかった・・・

 何はともあれ、早速ワッチです!

無線機

ワッチの結果

 さて、聞いた感じです。

 兵庫県飾磨郡移動を受信した感じですが、5エレでしか聞こえない信号も、DPでしか聞こえない信号もありました。これは聞いていて面白かったです。ヘッドホンの右から信号が聞こえたのに左からは聞こえなかったり、またその逆もあるのです。

 一瞬だけの入感(ショートバースト)の時に特に違いが出て、DPだけでしか聞こえない「ワッ」という音を何度か聞いています。また、DPで聞こえたと思ったら、次の瞬間に5エレで聞こえたことももありました。

 2〜3分開けきってしまうビッグバーストでは5エレの方が有利な感じですが、そのオープンの最中にもDPが5エレよりも強く入感している時間帯もありました。

 さて、3つのサンプルをREAL AUDIOで聞けるようにしてみました。それぞれ、アンテナによる違いがまちまちの結果になっています。どちらも同じ時間を聞いたものです。

SP SAMPLE-1 DPでの受信 (REAL AUDIO)
SP SAMPLE-1 5エレでの受信 (REAL AUDIO)

 SAMPLE-1では5エレの方が若干強く聞こえます。しかし、DPでも十分に強く聞こえます。


SP SAMPLE-2 DPでの受信 (REAL AUDIO)
SP SAMPLE-2 5エレでの受信 (REAL AUDIO)

 SAMPLE-2では、5エレの方が安定かつ強力に聞こえます。DPでは、途中一瞬だけ信号が確認できるだけです。しかし、この瞬間にも5エレの方の信号強度に変化はありませんでした。


SP SAMPLE-3 DPでの受信 (REAL AUDIO)
SP SAMPLE-3 5エレでの受信 (REAL AUDIO)

 SAMPLE-3ではDPの方が強く聞こえます。少し不思議な感じですね。

思ったこといろいろ

 もしも、MS通信の電波がEスポと同じメカニズムで伝搬しているとします。飾磨郡と清水市の距離は約360km。E層の反射点が150kmだとすると、最適打ち上げ高は40度くらいになります。

 打ち上げ角40度では、3mh5エレの方が1.5mhDPよりも6dBくらい余分にゲインがある筈です。6dBもゲインの差があれば、確実に5エレの方が強く入感するはずなのですが、現実はそうではありませんでした。DPの方が強くなる瞬間が何度もあったのです。

 垂直面の指向性を見ると、前方0度〜仰角48度までは5エレの方がゲインがあり、その仰角から後方に向かってはDPの方がゲインがあります。サイド方向の考察が抜けていますが、この方向だけで考えると、「DPでしか聞こえなかった信号」は、仰角47度〜後方の間から到来したのではないかとも考えています。


 DPでしか聞こえないときに、ローカル局に430MHzFMで連絡して同じ信号を聞いてもらったのですが、「聞こえない」と言われることが多かったです。ローカルの局は普通のビームアンテナを使っているので真上やバック方向からの電波を捉えることができないのではないでしょうか。

 その後、JA6YBRビーコンも聞きましたが、やはりDPの方が強い時が何度もありました。


 しかし・・・ここまで書いておいて無責任ですが、「DPの方が強い=真上or後方から電波が到来している」というのも疑問がない訳ではありません。DPの方が強かった他の理由として以下のようなことを考えました。

・実際にはE層よりもさらに高いところに反射点があるのかもしれないってこと
・実は「電波の落ちている、落ちていないの差」だけのなかもしれないってこと
 (この場合、簡易なダイバシティー受信をしていただけだったのかも)

 さて、どうなんでしょう?


 また、今回は急に思いついての実験でしたので、設備的に洗練されていません。。

・例えばアンテナの離隔距離は10mで果たして適切だったのかどうか?
・DPと5エレの比較が、打ち上げ高の比較として使えるのかどうか?
 (DPの方が当然水平面のパターンがブロードなので、変な方向からの電波を捉えている可能性がある。)

 等々検討の余地があります。


 いずれにしても、結論として言えるのは、「1.5mhのDPでもMSQSOは出来た。」ということです

 少し歯切れの悪い結論になってしまいました。どなたか追試してみませんか?

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