機器 ○

50MHz pHEMT Preamp.


前書き

 2004年,1月。ついに日本にも50MHzEMEが解放されました。自分も少しは関心があったのですが、アメリカの局がスケジュール相手を探しているとのことでしたので、自分もスケジュールを組んでみました。スケジュールの相手はW7GJ Lance。JM1SZY隈部さんのコーディネートで1回目のスケジュール。これは全く双方とも信号を確認できませんでした。モードはJT65Bです。
 その後、メール交換をして2回目のスケジュールを組んでみました。今度は、こちらの信号は相手のところでかろうじてデコードできたのですが、こちらではデコードできず、QSOできませんでした。(2004年3月現在)

 メール交換の中で、Lanceから新しいプリアンプを計画しているとの話がありました。デバイスの名前はATF33143。FETと言えば、「2SKなんちゃら」という名前が普通と思っていた自分には聞き覚えのないデバイスでした。早速Yahooで検索を掛けました。アジレントのFETのようですが、日本ではデータシートしか検索にヒットしませんでした。次にYahoo USA士検索を掛けると、いくつかのページが開きました。製作例もありましたが、回路図が載っていません。2mEMEerとして有名なSM5BSZのページに少し解説されていました。また、NFコンテストで1位をとった記録も出てきました。

 このデータシートによると、1.9GHzにおいて、NF0.5dB、IP3が33dBm。とあります。NFが低いのはLNA用の石としては当然として、IP3が異様に高いのが自分の関心を引きました。

 50MHzのフロントエンドと言えば、J-FET(2SK125等)ゲート接地系のIP3を高くとったものと、ガリ砒素(2SK571等)ソース接地系のNFを低くとったものがあり、トランシーバーによってはこれらを使用状況によって使い分けることができるものがあります。低NFと高IP3を両立したものは過去にはないようです。しかし、このATF33143はそれが可能なようです。


設計

 データシートが公表されているので、簡単にできます。基本的にはGaAsFETによるものと同様でできました。

 まず、各端子の電位ですが、データシートのグラフから読み取り、以下の条件とすることにしました。

ドレイン 4.5V
ゲート 0V
ソース 0.5V

 これを実現するための方法を考えました。
電源電圧を7805によって5Vに落とします。次に抵抗で電圧を落としてドレインに供給します。ソース電位を0.5VにするためにはソースとGNDの間に6Ω程度の抵抗を入れればよいようです。この条件でIDSが80mA前後となるはずです。

 入力のインピーダンスですが、データシートのΓoptの周波数による軌跡を延長していくと、100〜150Ω程度になるのではないかと想像できます。そこで、以下のような回路を組み、実験してみました。


 入力からのタップをGNDよりにすると、共振特性がシャープになります。普通のGaAsFETではΓoptが数KΩとなるため、この回路でも良いのですが、今回は100Ω程度にしたいところです。そこで、100Ωになるようなタップの位置にしてみたのですが、かなり広帯域な特性となり、これでは目的としない信号まで増幅してしまいます。

 そこで、「トロイダルコア活用百科」を参考に回路を変更しました。FET側のタップの位置も動かし、インピーダンスの変換比は低くとったまま、狭帯域な特性とすることができました。(下の回路図参照)

 ちなみに、上記回路による実験で、入力側のタップの位置を変えてもゲインがほとんど不変だということが判明しました。普通のGaAsFETで上記回路を実験すると、タップの位置によって10dBくらいゲインが変わったことがあったので、不思議な感じでした。それだけ、幅広いインピーダンス変化に対応できるということでしょうか?

 出力側の回路ですが、デュプレクサ形式にしました。電源側に入れるRFCの効果が、周波数に依存されることが多々あることを経験したので、それならいっそのこと共振させてしまえ、と、この回路になりました。FETのドレイン側から見ると、50MHz以外の信号は電源側の共振回路を介して、パスコンによりアースされます。
 この共振回路は、他の部分と切り離して、TG+スペアナで同調を確認してから接続しました。他の部分と取り離さないと同調が分からないし、同調を確認できないのであれば、やっぱり広帯域でインピーダンスが高くなるRFC等の方がいいかも。
 出力端子に向かっては50MHzの信号は直列共振回路を介して出力されます。出力側のインピーダンス変換が行われていませんが、単にパスコンを入れて出力している回路もあることから、とりあえず作ってから考えてみることにしました。この部分も103程度のコンデンサで出力するだけでもいいと思います。この同調回路は帯域特性にほとんど影響しません。

 最後に出力側に3dBのATTを入れ、動作の安定を図りました。

 そんなわけで出来上がった回路が以下のものです。



製作

 不確定要素が多いので、万能基板に組みました。シールド板も立てず、ラフな組み立てです。

 ATF33143は高IPというわりには、かなり小さく、半田付けに苦労しました。チップ部品です。しかし、よく考えれば100mAも流れていないのだから、これでもいいんですね。

 78L05では発熱が大きかったので7805としました。しかし、7805でも12V入力では発熱が大きいので、電源電圧を下げるか、7805に放熱板を付ける必要があるようです。

 また、ドレイン-電源間、ソース-GND間にある5.6Ωですが、100mA近く流れるため、1/2Wかそれ以上にする必要があるようです。(上記写真では1/4Wのまま)

 トロイダルコアの配線は少し強引です。相変わらず半田付けは上手ではないです。特にシールド板は設けていません。


特性測定

 特性測定、と言ったものの、最も肝心なNFを測定する環境がありません。しかし、他の特性について測定してみます。

 まず、ゲインについてですが、26dBくらいはあるようです。さすが、SHF帯の素子だけあり、VHFではゲインが取れます。初めに試した回路では、時折発振していましたが、上記回路図の回路では発振しませんでした。TG+スペアナでとった特性は下記のような感じです。

0〜100MHzの特性

55MHzくらいで変なディップができてしまった。
でも、結果的には良いか〜
45〜55MHzの特性

50MHz近辺に鋭いピークがあります。
DX仕様ですね。


 さて、今回は他のプリアンプとの比較に興味があります。NFは不可能だとしても、強信号特性がどれくらいあるか計ってみることにします。

 IP3を計るには、SG2台か、SGの他に発振器が必要です。それに、ミキサーなどにも高度な特性を要求されます。しかし、P1dB(1dB抑圧点)ならば、比較的簡単に計ることができます。これを他のプリアンプと比較してみました。

 比較したプリアンプは、

HEMT FET FHX35LG
ソース接地
(NFを優先させたもの)
J-FET 2SK125x2
ゲート接地
(強信号特性を優先させたもの)

 それぞれについて、電源の観点から比較してみると・・・

ATF33143 SG FHX35LG SG 2SK125x2 SG
VDS 4.0V 2.5V 10.2V
IDS 80mA 10mA 50mA
V x A 0.32 0.025 0.51

となります。ATF33143が最も電流が流れていますが、FETで消費される電力ということで考えれば2SK125x2が最も多いということになります。

 さて、P1dBですが、以下のような測定結果となりました。


グラフにすると以下のようになります。

  上記グラフは、各デバイスについて、ゲインの伸びがなくなったレベルから、1dB抑圧になった部分までのみを書いています。これよりも右に飽和したカーブが、左にはリニアな特性があると想像してください。どのデバイスもゲインに伸びがなくなってから-1dBとなるまでのレベル差は6dB前後でした。

 2SK125x2は思ったよりもゲインがとれず、わずか6dBです。FHX35LGも20dBです。どちらももう少しゲインが取れそうなものですが、自分の製作技術がイマイチなのか・・・それに比べてATF33143は簡単に26dBのゲインが取れました。

 P1dBについて比較すると出力面で、ATF33143と2SK125x2はほぼ互角です。しかし、ATF33143の方がはるかにゲインがあるため、入力側から見たP1dBは20dBも不利となってしまいます。

 FHX35LGと比較すると、入力面で比べても出力面で比べてもはるかにATF33143の方が優秀という結果になります。

 NFについては想像の域での話しですが、2SK125x2では1.5〜2.0dB、FHX35LGとATF33143が0.5dBくらいとなりますので、より低NFを望むなら、ATF33143が最も良いチョイスということになります。

 以上をまとめると、

ATF33143 FHX35LG 2SK125x2
Gain 26dB 20dB 6dB
NF
(期待値)
0.5dB? 0.5dB? 1.5dB?
P1dB
(out)
18dBm -3dBm 19dBm
P1dB
(in)
-7dBm -22dBm 14dBm


50MHzでは空中雑音のレベルが高く、そんなに低NFが必要ではないとするとATF33143を使うまでもないかなぁ?
近接周波数に業務無線等の強力な信号がひしめく144MHz辺りで真価を発揮しそうな気がします。もちろん、430MHz以上でも。

もっとも、いくらプリアンプを強化しても、ミキサで飽和したら意味がないけどね〜
(2004/3/14)


いいわけ

 上記、記事はLNAとして重要なNFの観点が抜けていますし、HEMT FETの1dB抑圧点がデータシート公表の値よりもかなり低いため、
測定エラーの可能性も捨て切れません。そこで、上記記事を参考にする際には参考程度とし、ご自分で実験されて定数を決定していただきたいと思います。

ただ、次のことは言えると思います。

1.入力側のインピーダンスは確かに低そうだ。
2.そのため、入力側の同調回路がお手軽でよい。
3.確かに1dB抑圧点は高い。

 肝心のATF33143ですが、アメリカでは5$で売られています。日本で小売店で扱っているところがあるかな?
自分は商社より大量に買い、何人かでシェアしました。
すばらしいデバイスには違いありません。
(2004/3/17) 


追記

 実際に使ってみたのですが、とにかくゲインが高い!
無線機本体のプリアンプは必ずOFFとし、場合によってはATTを入れないといけないかも。
(2004/3/18)


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