EME
弱小設備で移動でEME! 〜QSOまでの顛末〜
きっかけ
アマチュア無線の通信の中でもEMEには難しいイメージがつきまとい、今までやろうとも思ったことがありませんでした。あれは、巨大なアンテナとハイパワー、それに優れた自作の技術を持つ一部の人のみが享受できる楽しみなのだと思っていたのです。
しかし、1994年のハムフェアでJR4ENYにEMEの交信テープを聞かせてもらい、それがシングルヤギでQSOしたものだと聞き、「これなら自分にも出来るかもしれない。」と思ってやってみました。それが以下の顛末です。
VE3ONTを追いかけて 1994/11/26
VE3ONTが電波天文台の巨大なパラボラからオンエアするという情報を元に、初めてアンテナを月に向ける。
真夜中にJI2XPBと大井川港に移動。この日のために自作したJA9BOH設計の14エレ八木にFT-290。周波数は144MHz(これ以降の文章に全て共通)
微かに聞こえたのはVE3ONTではなくて、K5GW。受信には成功。50Wで呼んでもかすりもしなかった。
アンテナをスタック化 1995/3/5
かすかに聞こえるだけではQSOに至らないと思い、パラにすべく、もう1本ヤギを製作。
1995 EU EMEコンテスト
1995/3/12
今度は14エレのスタックでチャレンジ。これ以降、アンテナは変化無し。
JG2CEZと相良の海岸に移動。SM5FRH,K2GAL,W5UNを受信。W5UNは他の局よりも強い。それでも、呼んでもQRZ?が何とか戻ってくる程度。それも自分に対して戻ってきたのかも定かではない。無線機もIC-740+自作トランスバーターに変更。
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1995 EU EMEコンテスト (相良の海岸にて) |
1995 ARRL EMEコンテスト
1995/11/25
JL2HIWと相良の海岸に移動。W5UNがさらに強く聞こえる。これならいけるかも・・・と淡い期待を抱いて呼ぶがトランスバータの不調で出力が出ない。悔しい・・・。
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1995 ARRL EME コンテスト 手前は50MHz4エレ、7MHzダイポール |
スケジュールを申し込む 1995/11
JR4ENYとメール交換。「TSLの設備ではスケジュール組まないとQSOは厳しいのでは?」とのこと。早速E-MAILでW5UNにスケジュールを申し込む。
スケジュール1回目 1995/12/16
第1回目のスケジュール。真夜中、相良の海岸に移動。過去の例では、25W+シングルヤギでのQSOも可能だったとのことで、それよりも6dB程度の余裕があることを考えれば楽勝!とたかをくくっていたものの見事に失敗。単独での移動。風がとにかく強かった。W5UNは519〜529で入感した。他にはKB8RQが入感していて、JAの50W局とのスケジュールをこなしているのが聞こえた。同じ50W局なのに、自分はスケジュールに失敗したとは悔しい。
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風が強くてアンテナがこれしか上がらない。 仰角無し(大地反射による仰角のみ)で受信 |
スケジュール2回目 1996/1/13
2回目のスケジュール。JH2HKDに教えてもらった清水市駒越海岸に移動場所を変更。JH2HKDとJL2HIWに来ていただいたものの、受信すら出来なかった。あとでW5UN
にEメールを書いたら、「強風でオンエアできなかった」とのこと。
スケジュール3回目 1996/2/3
3回目のスケジュール。再び駒越海岸。またもや何も聞こえない。W5UNからのメールによると、「オンエアした」とのこと。W5UNすら聞こえなくなってしまい自信を無くしてしまう。25WでQSOできたなんて本当なのか?と疑うようになってしまった。また、諦めのムードも多少あった。JR4ENY曰く、「10回くらいスケジュール組めば、1回くらいは良いコンディションにあたるんじゃないの?」
1996 EU EMEコンテスト 1996/3/2-3
そして、1996 EU-EMEコンテスト。駒越海岸に移動。スケジュールは組まなかった。
23:00 現地に到着。早速、アンテナを組む。が、寒い! 車に入って暖まってまたアンテナを組むの繰り返しで何とかセッティング。
01:00 無線機に電源を入れると、早速I2FAKのCQが聞こえるが、無理しては呼ばなかった。仰角は42゜。かなり上にアンテナが向いていたが、それでも聞こえてきた。大地反射が使えない筈なのに。
01:20 I2FAKも聞こえなくなり、ひたすらノイズをワッチ。流石に眠くて、気が付くとうつらうつらしていることしきり。ノイズを連続して聞いていると眠くなる。
02:26 かすかな信号を捉える。QSBの山をつなぎあわせると、SM5BSZと確認。独特のキーイングで、逆に確認しずらかった。
03:50 何か聞こえるのだがコールサインは分からない。
04:20 月は日本平の方向(西)へ沈んでしまう。月明かりもなくなると、辺りは真っ暗。暗い中、アンテナを下ろして寝た。
06:30 まぶしい朝日で目が覚める。パンを食べて簡単な朝食。430MHzFMで数局とQSOした。互いにモービルホイップでも、袖ヶ浦市ともQSOできた。南関東とは相性が良いらしい。
08:00 まだ眠くて、ポカポカ陽気の中、寝てしまった。
11:00 折角来たんだからと、アンテナを垂直にして関東に向けてみた。144MHzSSBでポツポツと呼ばれた。
こんな、アンテナを上げてると、無線をやっている人から声が掛かる。
モービルおじさん | 「こんちは、これはなんのアンテナ?」 |
TSL | 「2mですよ。」 |
モービルおじさん | 「へー、こんな大きいアンテナなら遠くとできるでしょ。」 |
TSL | 「まぁね。」 |
モービルおじさん | 「外国ともできるんじゃないの?」 |
TSL | 「うーーーん、月が出てれば可能性があるけど、今は月がいないからダメ。」 |
モービルおじさん | 「月???」 |
14:30 月の出は16:00頃なので、アンテナを水平に戻す作業を始める。が、風が強くて思うように作業が進まない。
15:30 何とかセッティング完了。
16:00 ラジオで時計を正確に合わせる。計算上では、月の位置は仰角0.8゜。伊豆半島が邪魔で聞こえないだろうと思いつつも、ワッチし始める。JL1ZCGのCQが聞こえる。「なんだ、まだ月が見えないのに気が早いなー。」なんて思っていて、ダイアルを回すと、W5UNが聞こえてきた。 伊豆半島の方向は雲に隠れて月が見えない。それに、仰角0.8゜では、伊豆半島でさえも邪魔になる筈なのに、確かにW5UNは聞こえている。 しかも信号は強い! 今まで聞いた中でもっとも強く聞こえる。なんと言っても、Sメーターがピクピク振れている!のだ。
16:02 CQが終わるのを待って、早速呼ぶ。過去の失敗から、「今回もダメだろう。」と思いながら。
16:03 W5UNからは「QRZ?」が戻ってくる。誰に対してのQRZだろ?と他人事のように思っていた。
16:04 さらに呼ぶ。届いてくれと祈るように。
16:05 1分の送信インターバルを終えて聞こえてきたのは自分のコールサイン!!! フルコピーしてくれている。EMEでは何度も同じことを繰り返して打つので、何度も確認できる。「O」リポートが帰ってくる。
16:06 こちらからの送信。ひたすら「RO」を送る。コンディションは良いままのようで、こちらからの送信中にコンディションが急変しないように祈る。極端に緊張したのが幸いしてか、珍しくミスキーイングがなかった。
16:07 「R」が帰ってきて交信成立!!! もう嬉しくて嬉しくて有頂天になっていた。FB
HIDEと繰り返し打ってくれた。
16:08 こちらからもいろいろ打ちたかったのだが、何せ、こちらの電波は微かにしか届いていないのだろうから、73とTUをしつこく打った。
交信が終わってみると、それ自体はあっけなく感じた。しかし、2mのトラバタやアンテナを自作し、3回もスケジュールを組んで失敗したことを思い起こすと、何てここまでが長かったことか・・・。
他の人たちがもっと簡単にW5UNとのQSOに成功していることを考えると、「自分はいろいろと下手なんだなぁ。」とも思ったのだが、でも、自分にとっては非常に記念すべきQSOになった。しばらくは無線機の前でぼんやりしていた。
聞いていると、段々信号が弱くなり、丁度、コンディションのピークでQSOが出来たようだった。「ギリギリセーフ」の気分。
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その後得たQSLカード 超ビッグアンテナ!! |
QSLカードレポート欄 |
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1局QSOしただけでも、ログを提出すると、 こんなFBな賞状がもらえる。 |
最後にQSO出来たときの設備を整理して書きます。
RIG:IC-740+自作TRV+市販50WAMP (こだわって自作TRVを使いましたが、要は50W出ればよいのです。リニアにプリアンプが入っていますが、無くても聞こえます。相手はこちらより13dB以上強いのです。)
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車の後部座席を倒してシャックをセッティング 見えにくいが、パワー計に注目! 50W+上限20%以内です! |
ANT:14el Yagi(JA9BOH design)*2 (水平偏波、水平スタックで、スタック間隔は4m。FRPのパイプをスタックブームに使用しました。アンテナはマスプロのウェーブハンターがベースで、ブームをひたすら伸ばしたものです。ブーム長7.5m)
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移動EMEで使用したアンテナ こういうアングルで見るとでかいなぁ・・・ |
他の設備はいつも移動コンテストで使用している、タイヤベース/フジインダストリーマストにバッテリーです。高さは3mほどしか上げませんでした。
こんな設備でも、一部のビッグガン相手のみとしてもEMEのQSOは可能です。普段VHFのコンテストで使っているような設備を利用して、EMEにチャレンジしてみませんか?
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