○ 移動運用記 ○

2001/11/18 富士山2合目太郎坊移動 北米大爆発!


10年前のできごと

 まだ僕は東京都府中市に住んでいて、建築設計事務所に勤務していました。府中のアパートには屋上に4エレのHB9CVを立てて、それなりに6mのDXを楽しんでいました。カリブやヨーロッパなどの珍しいところとはQSOできませんでしたが、北米や南米の局とは何局もQSOできました。

府中時代のアンテナとシャック

 1991年はサイクル22のピークも終盤に差し掛かる頃で、北米のオープンも段々と少なくなってきました。しかし、11月17日は特別にオープンした日で、バンド中が北米の局でごった返していました。メキシコの局も聞こえ、未交信だったので頑張って呼ぶものの、ひどいパイルアップの前にはどうすることもできませんでした。そんな中、JI2UYKとJK2XPQのコンビはパイルアップを抜いてスパッとQSOしていきました。後から聞くと、彼らは前日から冨士山2合目、太郎坊に移動し、氷点下の中、6エレスタックを設営して、このオープンを迎えたとのことです。こんなオープンにそんなロケーションに移動したとは、何と運の良いことか!と思うと同時に、彼らの行動力に感心しました。そして、ロケーションがいかに重要かとも。

それから10年後

 再びサイクルのピークを迎えました。2001年、今年はサイクルのピークを越え、コンディションは悪化するはずでした。しかし、大方の予想は外れ、この秋は59+でヨーロッパもカリブも聞こえました。(QSOできたのはその内のいくつかだけだけどね。) コンディション的には明らかにピークです。

 10/27にはズラリと並んだW7を聞きました。通常、北米のオープンは11月〜12月が多いため、少し早めに入感したなぁというイメージがありましたが、11/10ころからはほぼ毎日聞こえるようになりました。今サイクルに入ってから自宅からも十数局の北米局とQSOできていましたが、もう少しやってみたいと欲がでてきました。

 50MHzは地域差が如実に現れるバンドで、5kmも違うだけで入感状況が違うことすらあります。北米とQSOするためには、なるべく北東に行けば良いことが分かっていました。自宅からやるよりロケーションの良いマリコシャック(500W固定局設置場所)に行くのも手ですが、もっとスゴイ場所に移動運用するのも手だなぁ…。
そうだ、あの場所に行ってみよう! 条件を満たす場所は、10年前にUYK&XPQが使ったあの場所。

 思い立ったが吉日。早速、日曜日に都合が良さそうなローカルのJH2DMIに電話して、一緒に行くことにしました。

前日

 北米−日本の太平洋越えショートパスが良好な日の前日は、大抵、北米−ヨーロッパの大西洋越えパスが良好のようです。(勝手な判断)

 前日の夜、OHクラスターで確認してみると、あまり良い感じがしません。そういえば、今朝もアラスカがチラっと聞こえただけだったなぁと嫌な予感がしてきました。追い打ちを掛けるのが新聞の占い欄。何気なく見ると「1月生まれ:遊びに出かけるのは金と労力の無駄。家で静養すべし」と書かれている…それに風邪の調子も良くない。1週間延ばして、来週にしようかな…と思い、DMIに電話してみる。しかし、DMIはすでに荷物を積み込んで準備万端。DMIの一言が自分の気を替えさせました。「もしも開けなくても良いから行ってみようよ!」 まぁ、コンデションが悪かったら、それはそれで仕方無いことにして行くだけ行ってみようということになりました。

朝5時起床

 12時に寝たから睡眠時間が5時間くらい。少し眠い。早速OHクラスターを見てみます。どうも、自分が寝た後、コンディションが上がったようで、いくつかの大西洋越えのQSOがスポットされていました。これなら少しは開けるかな?と思いつつ、車に乗り込みました。少し遅刻して5時20分に自宅を出発! DMIも少し遅刻したようです。

チェーン規制!?

 清水のセブンイレブンでDMIと合流し、2台の車は快調に富士山を目指します。富士宮からは富士山スカイラインに入ります。標高はどんどんあがっていきます。電光掲示板には「チェーン規制」の文字。僕はチェーンなんか持ってないよう!

 でもね、結果から言えばそれは全く問題にはなりませんでした。途中、路肩に残雪があるところもありましたが、路面が凍結していたのは、太郎坊駐車場のほんの少し前の区間だけでした。

 音声クラスターを聞きながら走ってきたのですが、07:00の時点ですでに北米のリポートが上がっています。W8のリポートだったので焦りました。内陸部じゃん。スキャッターなのか、正規伝播なのか? そして、このコンディションは我々が設備を設営するまで持ってくれるのか?

 駐車場に着いたら、はやる気持ちを抑えながらもすぐに設営開始です。

設営

 天気は快晴。確かに気温は低いけれども、太陽の明かりは眩しいし、風も無いので思ったよりも寒く感じません。それでも、車の気温計は8℃。
 アンテナを上げるのも比較的スムーズに済みました。2人いると設営も楽です。

ワッチ開始!

 シャックがセットできると早速ワッチです。設営中は音声クラスターを聞いていないので、バンドがどんな状況か把握していませんでした。しかーし! ダイアルを回して、状況がものすごいことに気付きました。バンド中、日本の局のパイルアップと強力な北米の信号で一杯です。バリバリ、ショートパスの正規伝播です。北米でCQを出している人もいますが、日本でCQを出して北米のパイルを捌いている人もいます。

 実はこの段階でJH2DMIはまだアメリカとQSOしたことがありません。どれか1局でもQSOできればNEWなのですが、さすがにこのパイルアップを抜くのは手こずりそうです。そこで、CQを出してみることにしました。

運用開始

 DMIはCQを出すのに躊躇しているようでした。でも、「CQ出せば絶対に呼ばれるって!」と励ましました。07:30です。

 CQ1回目、すぐにカリフォルニアの局が呼んできました。アメリカの局はネイティブな発音なのと、コールサインの構成が日本と違うため、少しDMIもやりずらそうでした。自分も応援して後ろからバックアップします。そして、何とかQSOをこなしました。DMIにとっては「呼ばれて1UP」です。続けて7〜8局の北米に呼ばれました。

 僕に交替することになりました。07:55になっていました。どこまでコンディションが続くのか不安に思いつつ。

 まずは呼びに回ってみます。N6DNU(50.265MHz SSB)、AA7A(50.142MHz SSB) どちらもすぐにコールバックがあります。さすがに標高1400m、かなり飛んでいるようです。


 空いている周波数を探してみます。50.218MHz、ここでCQを出してみることにしました。すると・・・すぐに呼ばれました。WA7KSF、アリゾナの局です。調子に乗って、どんどんCQを出します。次々と北米が呼んできます。呼ばれる快感!

 NU8I(AZ) , K7JE , W6XI , N7BFS , KF7CQ , KI7XV , WA7BAY , W7KV , WA7SDI , K7WV , W7BL , W7ZTT、11分でこれだけ呼ばれました。こりゃすごいコンディションだ。W7ZTTは前サイクルでもQSOしたことがあったので、そのことも少し話してみました。そして、ここでまたDMIに交代です。

NEWを探せ!

 携帯電話にローカルさんから連絡が入ります。「カナダもメキシコも聞こえるからやっとけば?」 メキシコは自分にとってはNEWです。そう、あの10年前にパイルアップに敗れてから、ずっと交信したかったカントリーの1つです。教えてもらった周波数を聞くのですが、パイルはひどく、相手の信号もそれほど強くありません。 後回しにしとくべきか・・・

 アメリカはアメリカでも0エリアや5エリアは比較的開きにくいので、少し探してみました。すると、K0GUという局が強力だったので呼んでみました。簡単にQSOできました。コロラドの局のようです。

 DMIはカナダとQSOしたこともないので、強い局を探すことにしました。VE7SL(50.086MHz CW)は59+で聞こえます。DMIも僕も簡単にQSOできてしまいました。

 次は再びメキシコにチャレンジ! まずはDMIがチャレンジしてみます。しかし、なかなかパイルアップを抜けません。そうこうしているうちにメキシコの信号は強くなってきて、59+になりました。自分も我慢できなくなって、先に呼ばせてもらうことにしました。すると、ちょうどコンディションが良くなったのか、すぐにコールバックがありました。NEWです。QSOが終わると、すぐに携帯電話が鳴ったので携帯電話を持って車の外に出ました。メキシコとのQSO中、「冨士山中腹からだよ!」と言ったのが受けたのか、僕が携帯を持って外に出ている時に、パイルアップを無視して、XE2EEDは僕に話しかけたらしいのですが、すでに僕は無線機の前にはいませんでした。ゴメンナサイ。その後、DMIもメキシコとはQSOできました。

再びCQCQCQ

 2人とも目標だったNEWとはQSOできました。あとはQSO数を重ねてみよう。DMIは「もう何局もやったから、お腹一杯。」と言うので、自分がまたもやCQを出すことにします。08:52.空いてる周波数を探して・・・50.220MHzがいいかな。CQを出してみます。すると、すさまじいパイルアップ。どひゃ! なんでこんなに呼ばれるの? W7NTFとQSOすると、すぐに他の北米の局に言われてしまいました。「この周波数には9M6がいるよ。日本の局はQSYして!」 ありゃりゃ。この場所は南西方向に富士山を背負っているので、マレーシアの信号は全く聞こえなかったのです。すさまじいパイルアップは自分をマレーシアと間違って呼んできた北米の局だったのですね。ゴメンゴメン。

 気を取りなおして他の空き周波数を探してみます。50.248MHzSSBでいいかな。08:52 W7INXに呼ばれました。まだ良いコンディションは続いているようです。09:03までの11分間でK2VZU(CA) , K6ETB , W7ARR , K6BAA , W7RPT , N7QWO , AB7IZ , W7YTZ , W7USB , N7BLSの12局と交信できました。信号は全てが59ではありません。QSBもひどい時があります。AB7IZには少し手間取りました。QSBのピークをつなげてコールサインを確認しました。こちらとQSOしたくて呼んできているのです。頑張ってコピーしなくちゃね。

 こちらもどうせCQを出すのだったら、たくさんの局とQSOしたいので、「富士山中腹ですよ!」と強調してCQを出してみました。富士山って言ったら、きっと日本で最も有名な山だもんね。(ちなみに、つたない自分の英語では、中腹を「Middle」と表現したのですが、家に帰ってから和英辞典をひいたら「Breast」と載っていました。うーん、通じたのかな?)

 それでも、中には「富士山」に反応する人はいました。「富士山からなの?」というようなことを聞いてきたので、「そうだよ、1000m以上の高さだよ!」と返すと「ガハハハ!」と思いっきり笑って返してきました。してやったりです。この状況にこの場所にいたことを本当に嬉しく思います。もう1時間以上も北米がオープンしています。

 昨日のことを思い出します。僕はOHクラスターを見て、移動運用を1週間延ばそうとしたのです。でも、それは間違いでした。新聞の占いは外れたのです。DMIの一言が正解だったのです。DMIに感謝しなければなりません。このコンディションに、ここ富士山中複で遭遇できて!

他のモードは・・・

 その後、DMIに交代して、自分は外を歩いてみました。少し寒いのですが、風はわずかに吹いている程度です。この場所から少しだけ上がると、雪が結構残っています。頂上付近は当然真っ白です。

 駐車場の脇には水洗トイレがありました。ここのトイレは循環式だそうで、絶えず水が結構な勢いで便器の中を流れていました。

 しばらく散歩して、また設備の前に戻ってきました。今度はCWでも出てみようか。今までSSBばかりやっていたので。

 09:33、かなり下ですが50.063MHzCWに出てみました。N7CW , K6PZB , K7RZU , WA9TKK(AZ) , AJ6T , NU7F 西海岸ばかりですが、5分で6局に呼ばれました。しかし、その後は呼ばれません。そこでワッチに移ります。

 バンドの中は相変わらず大混乱で、59+の北米と日本のCQがびっしりと聞こえます。時折、北米のパイルアップになっている周波数があるのですが、どうも、フィリピンや韓国辺りを呼んでいるようです。北米の局でCQを出している局にはビッグガンはいないようですが、そこには日本の局が群がって呼んでいます。かと言って、北米の局のオンパレードかと言えばそうではありません。日本の局もCQを出していて、結構呼ばれています。どちらかと言えば、日本の局のCQの方が多いようです。ここは1エリアが見下ろせるようなロケーション。1エリアの局はみんな59で聞こえるので、すごい混乱しているように感じます。中にはモービルでCQを出している日本の局もいますが、呼ばれることができたかなー? 日本語で普通にCQを出している移動局もいるのですが全く場違いに思えてしまいます。

 下の方の周波数は混乱しているから上に逃げてみようと、50.500MHzまでダイアルを回し、そこから下へとダイアルを回していきます。50.400MHzまで下りると、Sメーターがガクンと振り、スピーカーからは「ピューン」という音。FMか? モードをFMにしても復調できません。AMだ! AMにモードを替えると、クリアに北米の信号が聞こえます。CQが終わると、DMIが頑張って呼びます。返ってきました! 北米とAM2wayQSOできたのです。

 相手の言うことを聞いてまたびっくり。「こっちは5Wでやってるけど、そっちは何Wでやってる?」 えー、この人QRPなの! メーターは9+も振ってるんだって! と思ったのもつかのま、あっと言う間にS=3くらいまで信号が落ちてしまいました。DMIは慌てて「50W!」と返します。次のタイミングには相手の信号はほとんど了解できなくなってしまった。良く考えたら、SSBで50Wだけど、AMでは何Wだったんじゃろか?

50MHzAMで北米とQSOできた!
思わずピースのJH2DMI稲葉さんです。

 北米にもAM好きな人がいたこと、その人の信号が5Wにも関わらず59+で聞こえたこと、どちらもが驚きでした。

次のびっくりは!?

 10時を回ってもまだ聞こえているようです、もう、ビッグオープンというにふさわしいですな。カナダの局は結構多く出ているようなので、もう1局QSOしました。10:07 50.098MHz VA6VV。ロケーション効果はすさまじく、簡単にパイルアップを抜くことができます。

 そして、またもやCQを出してみます。再び50.063MHzCW。10:08。すぐにK6YKに呼ばれます。NX7Uの次に呼ばれたのは、K7XC/M。/Mってのはモービルの略なのかな?と思いつつ、その後、また呼ばれなくなったのでSSBに戻ります。

 10:15。50.260MHzSSB。ここまで来ないと空き周波数がありません。そして呼んできたのは、WM7N。モービルと言っています。SSBなので確かに確認できました。やっぱり、さっきの局もモービルに違いない。W7TRXと一緒に呼ばれたのは日本語みたいな感じでした。JAの局が呼んできたのかな?と思い、W7TRXの次にその局をピックアップすると、WB6Zモービルでした。カリフォルニア在住の日本人の方のようです。サイクル22でも2局ほど日本人の方とQSOできましたが、今サイクルでも日本語でQSOできるとは思わなかった! 「こちらはモービル半固定です。そちらは富士山からですか?」「はい、こちらは富士山2合目からです。1000m以上標高がありますよ!」そんなやりとりがありました。

 その後、WB6FFC , W7WTQ , WX7M , KC7FFK , K7DBUとQSOしたところで呼ばれなくなりました。そして、バンドの中も静かになっていきました。

 K7DBUとのQSOが10:31。実に3時間以上のビッグオープンだったことになります。

午後は

 ひょっとして夕方も開けるんじゃないか?と、富士山の南斜面、西臼塚駐車場に移動しましたが、夕方はわずかにスウェーデンの局が聞こえただけで成果は有りませんでした。この駐車場には、夜から始まる「しし座流星群ショー」を見に来た人が後から来ましたが、逆にこちらはアンテナをたたんで帰途に着きました。

まとめ

 カナダ2局、アメリカ3局、メキシコ1局を呼び、アメリカ42局に呼ばれ、計48局の北米局と交信できました。さらにJH2DMIも十数局交信しているわけで、2人合わせれば信じられない成果です。

 アメリカの内訳ですが、CA , AZ , WA , OR , CO , MT , ID , NVの8州。K0GUを除いては全てW6,7の西よりの地域でした。良くワッチして奥の方を狙うこともできたのでしょうが、自分は呼ばれるの大好き人間なので、たくさんの局とQSOできたことの方に喜びを感じました。

 前日に行くのをやめようとした僕を説得してくれたJH2DMI稲葉さんには大感謝です。10年前に他人のやったことをマネしただけなのですが、こんなにドンピシャ当るとは本当にびっくりです。50MHzはマジックバンドたる所以です。

 10年前のUYK&XPQの移動運用が1991/11/17、今回の移動運用が2001/11/18。
10年と1日しか違わないのです! さらに10年後、また富士山に移動運用に行きましょうかね!?


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